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[東京小考]慰安婦問題の合意に魂を入れよう

[東京小考]慰安婦問題の合意に魂を入れよう

Posted January. 07, 2016 07:27,   

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拝啓 朴槿恵大統領

 あけましておめでとうございます。 大統領就任から間もなく3年になりますね。たまたま同じころ新聞社を退職し、ソウルや釜山の大学にも籍を置いてこの国との縁を深めてきた私にとっても、この3年間は貴重な体験の連続でした。

 その間、両国には寒々しい関係が続いただけに、このコラムでは大統領に対してもしばしば苦言を呈してきました。言論人の一人として、これからもその失礼をお許し願いたいのですが、今日だけはまず、大統領の決断を称えたいと思います。

 それは、年末に日韓外相会談で合意された従軍慰安婦問題の解決策のことです。いえ、もちろん手放しで喜んでいるわけではありません。元慰安婦のハルモニたちや支援団体からは強い反発の声も上がっており、これからが正念場でしょう。

本来なら、そうした方々の納得も得たうえで政府の合意に至るべきでしたが、あまりに複雑な政治問題と化していた一件です。時間的にも切迫していたことから、反発も覚悟のうえで大きな決断を下したのでしょう。さぞつらかっただろうと、心中をお察しいたします。

日本に譲りすぎたという批判があるかもしれません。でも日本では、この問題に頑なな姿勢をとってきた安倍晋三首相を賞賛してきた人たちが失望し、首相を「売国奴」とののしる声すらあるのです。それもそうでしょう、初めて日本の政府が「責任を痛感する」と明言し、安倍首相も初めて「心からのお詫びと反省」を表明したのですから。「法的責任」や「賠償」の言葉こそ使っていませんが、政府の責任の証しとして10億円を全額公費で出すのです。かつての安倍氏の立場からすれば、信じられないほどの変化、いや画期的な前進と言った方がよいでしょう。

それは、大統領の強い意思があればこそ、でした。国際社会も巻き込んで粘り強く日本の決断を求めてきたうえ、ついに実現した昨秋の日韓首脳会談で、国交50年にあたる年内の解決を強く促したからです。そのために韓国も譲るべきは譲ろうと決意し、「最終的で不可逆的」な合意に踏み切ったのでしょう。

さて、いま自らへの非難の声を聞きながら、大統領は50年前に父上が浴びた「屈辱外交」の声を思い出しているかもしれません。あの時の世論にはいまと比べられないほど激しい反発がありました。それでも父上は「これが正しい道かどうかは、後世の判断にゆだねる」と言って、日韓の国交正常化を押し進めたのです。それは間違っていなかったという確信、さらにそのとき残された課題を片付けることこそ自分の使命だとの思いが、大統領を揺り動かしたのではないですか。

もっとも当時とは違い、もはや軍や治安組織の力で異論を封じ込めることはできません。だとすれば、求められるのは言葉と行動の力です。そこで、思い出すべきはお母さん、陸英修女史のこと。広い寛容の心をもち、とりわけ恵まれない人々に愛を注いで「国母」と呼ばれた方でしたね。

いま何より急がれるのは、元慰安婦のハルモニたちの気持ちを溶かすこと。そのためには、孤児院であれハンセン病患者の施設であれ、どこにでも出向いた母上の姿が参考になるはずです。また、10億円でつくる財団は、幾多の哀しみを未来に生かしてこそ、亡きハルモニたちも浮かばれるはず。支援団体も交えた協議で、この財団に魂を入れてもらいたいものです。

大使館前の路上にある少女像の件ですが、その移転は約束されておらず、移転が10億円拠出の条件だという日本での報道は正しくありません。ですが、やはり少女像はもっとふわさしい場所に移せないものでしょうか。そうすれば、慰安婦の哀しみに思いを寄せる日本人も、わだかまりなく少女像の前で祈りを捧げられるでしょう。

そんな日がくるためには、日本の政府にも国民にも、合意の精神に魂を入れる言動が必要です。私もそんな自戒の気持ちをもったことを、最後に申し添えたいと思います。

では、大統領のご健勝を心からお祈りしつつ、筆を置きます。

(若宮啓文 日本国際交流センター・シニアフェロー、元朝日新聞主筆)