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[東京小考]ハルモニの名誉は傷ついたのか

[東京小考]ハルモニの名誉は傷ついたのか

Posted December. 10, 2015 07:33,   

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韓国の皆さんへ。

かつて韓国が大日本帝国に併合されていたころ、日本にもそれに反対する言論人がいました。石橋湛山です。朝鮮や台湾の植民地、そして満州国もすべて放棄しろと主張したのです。戦後は政治家として首相にまでなりましたが、病のためすぐ退陣した悲運の人でもあります。

言論の自由を唱え、平和を愛した人でした。その志を受け継いで設けられた賞が、いま日本に2つあります。「石橋湛山賞」と「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」です。実は、ことし前者を私がいただいたのですが、ここで言いたいのは後者の賞のこと。「帝国の慰安婦」の著者である朴裕河さんが選ばれ、今日、早稲田大学で授賞式があるのです。朴さんはすでに毎日新聞からも「アジア太平洋賞」の特別賞を受けたので、二重の受賞となりました。

日本でも出版された「帝国の慰安婦」は、日韓双方にある両極端な慰安婦のイメージから離れて、さまざまな実態があったことを直視し、現実的な解決を急げと主張した本です。しかし皮肉なことに、元慰安婦の9人のハルモニから名誉毀損で訴えられ、刑事事件として起訴までされてしまったのです。

そんな折、日本で受賞すると、韓国では「やっぱり親日の本か」と思われないか心配ですが、どうぞ誤解なく。石橋湛山の名に恥じない本として、彼の母校でもある早稲田大学が与える賞なのですから。それに、アジア太平洋賞を出した毎日新聞も右傾化には反対の立場です。

ご存知かもしれませんが、起訴の1週間後、日本では5人の外国人を含む54人が抗議声明を出しました。私もその一人ですが、韓国との関係を大事にし、謙虚な歴史認識をもつ作家や学者、ジャーナリストらが参加しました。慰安婦問題の解決に取り組んだ元政治家らの名前もあります。これだけのメンバーが瞬く間に集まったのは「あの本を、まさか犯罪扱いするとは」という驚きからでした。隣国に対してこんな口出しは避けたいのですが、日韓関係にも深くかかわるだけに黙っていられなかったのです。

ホッとしたのは、続いて韓国の知識人たちが抗議声明を出したことです。朴さんを批判する人たちの声明も出ましたが、そこにも「刑事責任を問うのは適当ではない」と書いてあるではありませんか。さすが民主主義の国だと、これには敬意を表します。

さて、あの本は微妙な話を鋭角的な表現を交えて書いているので、意図を誤解されやすかったのでしょう。さらに、感情的な行き違いもあって、ハルモニたちの一部に訴えられてしまったのはとても残念です。そこには著者の力不足もあったと言えるでしょう。

ですが、少なくともこの本を読んだ私には、これによってハルモニたちが侮辱されたとはどうしても思えません。逆に、ハルモニたちの重くて複雑な心の傷が、私の胸に迫ってきたのです。

朴さんが慰安婦を「自発的な売春婦」だと主張したという批判がありますが、これは間違いです。業者にだまされたり、高圧的に連れていかれたりした例を多く挙げる一方で、貧しさから身を売らざるを得なかった女性たちのことが書かれてあるだけです。あの時代、そんな女性がいたことを誰が否定できましょう。そして、誰がそれを蔑むことができるでしょう。

慰安婦と日本兵が「同志的関係」にあったという記述も誤解の的ですが、よく考えてみてください。屈辱的にせよ、彼女たちも日本人として戦争の前線に送られ、敵の軍隊と対峙して、日々、兵士たちと生死をともにしたのです。そんな極限状況では、好むと好まざるとにかかわらず、微妙な同志的な関係も生まれざるを得ないでしょう。

そもそも日本兵として戦い、戦地に散った韓国人の男性も少なくなかったのです。それを責めることはできません。実は、こうした現実にこそ、併合された側の深い悲哀とともに、併合して無謀な戦争にも巻き込んだ側の大きな罪があると思うのです。さらに女性蔑視の構造が重なった悲劇の二重性こそ、朴さんが語りたかったことではないでしょうか。

(若宮啓文 日本国際交流センター・シニアフェロー)