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[東京小考]韓国大統領が中国軍を閲兵するのなら

[東京小考]韓国大統領が中国軍を閲兵するのなら

Posted September. 03, 2015 07:19,   

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韓国のヒット映画「国際市場」の冒頭シーンは印象的だった。主人公の一家を含む大群衆が、北から攻め寄せる中国軍の恐怖に怯えつつ、海岸を去るアメリカの軍艦に救助を求める。米軍の艦長がついに決断し、船から多くの武器を下して代わりに群衆を乗せる。そんな感動の光景だった。

 今日、北京で行われる「抗日戦争勝利70周年」の記念式典に朴槿恵大統領が参加する。習近平主席やロシアのプーチン大統領と並んで、軍事パレードの閲兵式にも加わると聞いて、あの映画のシーンを思い出した。こんな時代が来ようとは、かつて誰が想像できただろうか。

 アメリカやその同盟国の首脳が一斉に欠席を決めた中で、朴大統領の招待には習主席が強くこだわった。だが、こんなことは習主席自身、つい数年前まで夢想もしなかったのではないか。

 2010年の秋のこと。次期主席の座が約束された習副主席は、かつて朝鮮戦争に参戦した中国の元兵士らの集会に出席して次のように語った。

「偉大な抗美援朝戦争は、平和を守り、侵略に対抗する正義の戦争だった」

「中国は北朝鮮との血で結ばれた友情を忘れたことはない」

中朝両国がかつて「歯唇の関係」と言われた同盟国であるのは間違いないが、いまさらここまでそれを称えるのかと驚かされた。ところが、それからわずか5年。中国の軍事パレードを閲兵するのが金正恩第一書記でなく、朴大統領だと聞けば、故金日成主席も天上で仰天しているに違いない。

 それというのも、孫のまいた種のせいである。習氏の主席就任以来、核実験をはじめ、どれだけ中国の忠告を無視し、体面を傷つけてきたか。そこに巧みに付け入ってきた朴大統領の対中外交は実にダイナミックだと言える。

だが、今度のことが日米両国を刺激するのは無理もない。

 まずはアメリカである。映画を思いだすまでもなく、あの戦争ではアメリカが莫大な犠牲を負いながら韓国を守った。その時の敵対国がいま世界に見せつける軍事パレードに、よりによって韓国の大統領が参加というのだから戸惑うのも当然だ。

 そして日本。「抗日戦勝」を祝っての軍事パレードだけでも大いに気になるのに、「韓国よ、お前もか」という心境だ。しかも中国、韓国、ロシアと、日本との領土争いを抱えている三か国の首脳が並べば、穏やかでいられまい。

そもそも中国で抗日戦争の主役だったのは共産党ではなく国民党だった。アメリカのルーズベルト大統領と気脈を通じて戦ったのも、上海で金九氏らの亡命政権を支援したのも、国民党の蒋介石総統だった。それなのに……という違和感も日米両国にはある。

 さて、裏を返せば、中国が朴大統領を熱心に招いた狙いははっきりしてくる。北朝鮮を強くけん制する一方、「日米韓」による安全保障上の結束を揺るがすことだ。あわよくば将来、韓国を中国の影響下におきたいに違いない。

 東アジアの激動の中で、もちろん韓国政府も慎重に考え抜いたのだろう。朴大統領は、外交や内政上のプラスとマイナスをよくよく検討したうえで参加を決断したに違いない。北朝鮮への包囲網を固めるチャンスであり、これは朝鮮半島の平和安定に役立つのだと説明して、アメリカの理解も取り付けた。外交当局者からはそんな話も耳にした。

 安倍晋三首相が出した戦後70年談話に関して、朴大統領が批判のトーンを抑えたのも、一つには訪中を控えての対日配慮があったからだろう。それは賢明な判断だったが、それだけでは不十分である。

この式典に参加するからには、いよいよ日韓首脳会談の実現にもダイナミックに踏み出すべきだ。延期されている日中韓の首脳会談を年内に開くよう合意をとりつけたのはよかったが、その機を利用して日韓もやるという発想では主体性が乏しくないか。9月の国連総会の折でもいいから、まず日韓会談を開くという気概がほしい。

(若宮啓文 日本国際交流センター・シニアフェロー 前朝日新聞主筆)