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「暴言不眠症」の克服

Posted February. 25, 2014 04:42,   

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どれくらい経っただろうか。不安な心を抑え、そばにあるスマートフォンを見る。もう午前3時。心臓の鼓動が耳のそばで聞こえるかのように感じられる。緊張で髪の毛が逆立つようだ。寝なければならないのに、もう3日目だ。明日は期末試験なのに…。温かい牛乳を1杯飲む。大きく深呼吸してみる。広い牧場で飛び回る羊の群れを頭の中で描き、数を数えてみる。1匹、2匹…。

効果がない。数えれば数えるほど、かえって目が覚めてくる。頭はいっぱいで、全身は殴られたように疲れている。にもかかわらず、眠れなくて気が狂いそうだ。

●眠れない一言、「裏切り者」

3ヵ月前だった。ユソン(仮名・16)に「怖い」友達ができたのは。その友達は1年前から知っていた。関係は良くも悪くもない、顔見知り程度の間柄だ。しかし、あのことがあってから、彼は恐ろしい友達になった。

その友達は殴ることはなかった。ひどい悪口を言ったわけでもなかった。ただその時分かった。その友達が他の友達に会うと、「ユソンは目の前では笑っているが、後から頭をなぐる(裏切る)奴だ」と言い触らしていることを。なぜそんなことを言うのか分からなかった。だからといって聞くこともできなかった。親しくない間だったからだ。

「時間が経てば収まるだろう」。こう考えたのが災いとなった。しばらくして悪夢が始まった。数人の友達が面と向かってユソンに言い出した。「裏切り者」と。そしてその頃からユソンは毎晩ひどい不眠症に苦しめられた。

不眠症は未だ進行形だ。最近は時々幻聴も聞こえる。誰かに「裏切り者」、「後から頭をなぐる(小突く)×」、「一緒にいてはいけない×」とコソコソ言われているようだ。夜に眠れず、授業に集中できない。食欲がなくなり、体重は4kgも減った。何より苦しいことは、不眠症がどれだけ長引くか分からないということだ。ユソンは、「体の具合が悪ければ薬を飲めば良くなるのに…。これはベッドで毎日自分と闘わなければならないのが苦しい。もう疲れた」と涙声で話した。

不眠症に苦しむ人が急増している。国民健康保険公団が発表した診療費統計によると、睡眠障害で病院を訪れた人は昨年だけで40万人を上回る。

「悪口」は不眠症を招く主要因の1つだ。悪口、暴言などがユソンのように眠れなくなる人を生んでいる。

普通、悪口による不眠症は「適応不眠症」と呼ばれる急性不眠症と関係が深い。

会社員のアンさん(32)は、眠る直前、常にその日に会社で聞いた暴言を思い出す。会社にいる間は忙しくて気にしなかった言葉。しかし、ベッドに横になり、静かに1人だけの時間になると、その日上司に言われた言葉が次々に思い出される。考えは深まり、その言葉を思い出すと腹が立つ。

このように不快だった言葉や状況を繰り返し思い出す過程を精神医学的に「反芻(rumination)」と呼ぶ。ソウル峨山(アサン)病院精神健康医学科の洪鎮杓(ホン・ジンピョ)教授は、「反芻は人をさらに憂鬱で不安にさせる。『なぜ反論できなかったのか』と後悔し、自分自身を責め、自尊心が傷つく。無力感まで生じる。精神が疲れ、体から不眠症という反応が現れることになる」と説明する。

●脳に刻まれた悪い言葉が不眠症を招く

ソウル陽川区新月洞(ヤンチョンク・シンウォルトン)の国立科学捜査研究院の犯罪分析室。催眠を通じて犯罪の手がかりを探し出す。催眠は、日常的な刺激を遮断し、意識の集中状態を作る。催眠に入れば、被催眠者はこれまで潜在的に抑圧されて表出しなかった状況を思い出して話す。

被催眠者の反応で特に注目しなければならないのは、彼らが犯罪時に聞いた言葉の記憶だ。国立科学捜査研究院のハム・グンス犯罪分析室長は、「暴行を受けた記憶よりも言われた言葉の記憶が鮮明なことが多い。言葉自体が非常に強烈な刺激として脳に刻まれるためだ」と言う。そうして思い出させる言葉は手がかりの発見にも大いに役立つ。

悪口など暴言は一般的な言葉より脳に何倍もの強烈な刺激を与える。脳の中で感情処理を担い脅威感知センターである扁桃に非常に明確に刻印される。江北(カンブク)三星病院精神健康医学科のイ・ジェホン教授は「扁桃は暴言を聞くたびに鋭敏になり活性化する。衝撃的で重要な情報として認識し、再び経験しないようにするためだ」と説明した。

扁桃が興奮すれば、周囲にある視床下部も興奮する。自律神経系のうち交感神経も緊張する。交感神経が興奮すれば、鼓動が早まり、息が荒くなる。脳の覚醒も起こる。最終的に脳と身体が極度の緊張反応を示し、不眠症になる。

女性や青少年は暴言による不眠症にさらされる可能性が高い。「不安感受性」は同じ刺激を与えた時、不安症状がどの程度かを示す指標だ。一般的に不眠症は不安感受性が高ければ高いほどよく生じる。女性は男性に比べて、青少年は成人に比べて不安感受性が相対的に高い。

ソウル峨山病院精神健康医学科のキム・ビョンス教授は、「特に青少年の時期は自尊心が形成される時なので、暴言で自尊心が傷つくと、それによって不眠症が長引く可能性が大きい」と指摘した。