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[東京小考] 朴大統領、訪中で新時代をつくるのなら

[東京小考] 朴大統領、訪中で新時代をつくるのなら

Posted June. 27, 2013 06:49,   

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朝鮮戦争が始まって63年がすぎた一昨日、私の脳裏には10年ほど前に見た韓国映画が鮮かに浮かんでいた。チャン・ドンゴンとウォン・ビンが熱演した「ブラザーフッド」(原題「太極旗ひるがえる」)である。あの戦争で敵と味方に引き裂かれてしまった兄弟の悲劇。あまりにも哀しい物語に泣けて仕方なかった私は、一方でハリウッド映画顔負けのリアルな戦闘シーンの連続に圧倒された。

この映画で思い出すまでもなく、北朝鮮軍が平壌まで後退するや、突然、参戦して国連軍を現在の境界線まで押し返したのは中国の人民義勇軍だった。毛沢東主席の長男も戦いに加わって命を落としたのは有名な話。中国と北朝鮮が「歯唇の関係」と言われたゆえんである。中国が参戦しなければ、朝鮮半島は統一されていたのではないか。

ただの昔話ではない。新たな国家指導者になった習近平主席は数年前、副主席としてあの戦いを「平和を守り、侵略に対抗する正義の戦争だった」と言い、「中国は北朝鮮との血で結ばれた友情を忘れたことはない」と語った。実際に戦った中国の元兵士たちの集会でのことだけに言葉が走ったのかもしれないが、ドキッとさせられる発言だった。

朴槿恵大統領が今日、その習主席と北京で会談する。中国との国交を開いて21年目の韓国だが、大統領が日本に先立って中国を訪問するのは初めて。しかも多くの経済人を引き連れての訪問を中国側は大歓迎のもようだ。

北朝鮮との「血で結ばれた友情」はどうなったのですか、と主席に皮肉を言うつもりはない。むしろ、金正恩第一書記に見せつけるように朴大統領を歓待する中国を、私は感慨深くながめている。いま、金正恩氏はどんな心境なのだろう。

北朝鮮が三度目の核実験に踏み切ったあとの今年3月、中国のある北朝鮮研究者と東京で会った。彼とは昨年秋、中国の瀋陽で知り合ったのだが、そのとき彼は習近平体制への移行に伴って金第一書記が早目に中国を訪ねるだろうと予想していた。

その根拠も挙げていたのだが、予想は見事にはずれた。「結局、金第一書記が中国よりも核とミサイルを選んだということです」。再三にわたる中国の制止を聞かず、昨年末の長距離弾道ミサイル発射に続いて核実験も断行した以上、訪中が遠のくのは当然だった。

中国が北朝鮮に厳しい態度をとったのはご承知の通りだ。彼も「こんなことは初めてだった」と言い、中国の激しい怒りの根拠を3つ挙げた。

第1に、あれほど真剣に核実験をやめさせる努力をしたのに、聞き入れられなかった。第2に、かつてなく民衆の怒りが強かった。北京で北朝鮮の大使館にデモが押しかけ、インターネットには批判の声があふれた。そして第3に、発足したばかりの新指導部が冷や水を浴びせられた。なるほど、これでは習主席も「血の友情」どころではないだろう。

裏を返せば、北朝鮮は中国の強い怒りを買ってでも、米国を脅かしうる核保有国への道を選んだということだ。この国の三代目は「中国の言うなりになるまい」と、父親より強く考えたに違いない。朝鮮半島の緊張を思い切り高めておいて、米国との直接対話を持ち掛ける。そんなシナリオを描いたのだろう。

これに対し、朴大統領と習主席が相次いで米国を訪れてオバマ大統領と会談。そして今度は朴大統領の訪中だ。そうした足並みをにらみながら、北朝鮮も6者協議への復帰や南北対話の姿勢をのぞかせて揺さぶりをかける。激しい外交の駆け引きである。

さて、そんな動きに取り残されているのが日本ということになるのだろう。領土問題や歴史認識をめぐって、いまや日中も日韓も冷え切っており、5月にはソウルで準備されていた日中韓の首脳会議が延期された。北京で演じられる首脳会談は北朝鮮だけでなく、日本にも見せつけるものになる。ここでも時代の変化を痛感するしかない。

だが、いくら北朝鮮に厳しくなったとはいえ、最後は中国があの国を守ることに変わりはない。民主主義の体制や人権問題で、中国が我々とは異質の国であることも事実だし、軍事的な膨張は多くの国の不安を招いてもいる。朴大統領がいま、60年前の苦々しい過去を乗り越えて中国との新時代をつくるのはよいとして、それなら日本の過去だけを厳しく問い続けるのはいかがなものか。

日本にも問題があるのはよく分かる。だが、「ソウルプロセス」を掲げて東アジアの平和と安定を望む朴大統領だ。ここは日本を巻き込むよう、むしろ中国に働きかけてこそ新指導者としての株が世界で上がる。東アジアの平和と繁栄は、やはり日中韓の連携なしにありえないからだ。

(若宮啓文・日本国際交流センターシニアフェロー、前朝日新聞主筆)