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金正恩は、なぜ「マイウェイ」に拍手したのか

金正恩は、なぜ「マイウェイ」に拍手したのか

Posted June. 24, 2013 08:27,   

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二人の米国人が北朝鮮のある食堂の玄関口でふざけながら冗談を交わしている。一人は米バスケボールチーム、ハーレムグローブトロータスの選手で、もう一人はドキュメンタリー映画監督だ。二人の前には「蛇酒」が置かれている。酒の入った瓶には本物の蛇2匹が入っている。映画監督が、「元気が出るには最高なんだから、一杯飲め」と勧めると、バスケット選手は「気持ち悪くて飲めない」と首を横に振った。二人とも、蛇酒を不思議そうに見ている。

今年2月、元NBA(米プロバスケットボール協会)スター、デニス・ロッドマンと喜劇的なパフォーマンスで有名なバスケットチーム、ハーレムグローブトロータスの選手たちが北朝鮮を訪問し、金正恩(キム・ジョンウン)を面会し、バスケ教室を開いた。一緒に訪問したドキュメンタリー制作チームは、彼らの訪朝と北朝鮮住民の生活をカメラに収めた。「バイス(VICE)」というタイトルのドキュメンタリーが撮影開始から約4ヵ月目となる今月14日、HBOケーブルチャンネルから全米に放送された。

「バイス」は、もともとは世界の危険な地域を取材して放送するシリーズものだ。オンライン用として制作されたが、今年からHBOケーブルチャンネルで放送されている。HBOは、年内予定されている12回のシリーズの掉尾を飾る最終回に北朝鮮編を放送した。昨年末、メディア向けで北朝鮮編の特別試写会を開いている。

最初は、「バイス」の北朝鮮編には、北朝鮮に好意的な内容が多く含まれるだろうという見方が支配的だった。制作チームは、北朝鮮の3回目の核実験を受けて緊張が高まった状況下で、北朝鮮当局から正式に招かれて訪問し、金正恩(キム・ジョンウン)まで会う幸運に恵まれたからだ。だが、30分間放送された番組の至る所には、北朝鮮に対する批判と、「到底理解し難い国」というもどかしさが滲み出ている。

北朝鮮側の案内人は、制作チームが到着するや否や、「我々はあなたたちのことが嫌いだ」とむき出しの反感を突きつけられながら、いつカメラを回して、いつ止めるべきかを一々指示していたと、ライアン・ダフィ監督は伝えた。また、北朝鮮の指示に従わないと監獄にも入れられるという風の警告も受けたという。

番組で最も興味深い場面は、ロッドマン一行が北朝鮮の学校を訪問したときのこと。生徒たちは、皆コンピューターの前に座っていたが、マウスだけを動かしているだけで、本当にコンピューターた使える生徒は一人もいなかった。また、制作チームが訪ねた水族館と欧米式のスーパーでは、北朝鮮住民を見かけることができなかった。このような施設は、外国人に見せかけるための「仕込まれた(staged)」ものだったと、制作チームは伝えた。

ロッドマンが番組の主人公だと思われるかもしれないが、実はあまり登場していない。彼が登場するシーンは、全部で5分もない。ロッドマンは、番組向けの別途のインタビューもしなかったという。制作チームによると、ロッドマンは、訪朝後、自分への批判が高まると、自分が登場するシーンを縮小して欲しいと要請したという。

バスケ試合を観戦した後、金正恩がロッドマン一行のために設定した晩餐会には、カメラ撮影は認められなかった。制作チームによると、ロッドマンは、晩餐会でフランク・シナトラの名曲「マイウェイ(My Way)」を歌い出すと、金正恩は熱烈な拍手を送ったという。また、ミニスカートを着た北朝鮮の女性ロックバンドは、米国映画「ロッキー」のテーマ曲を演奏して会場を盛り上げた。

番組は、「街角に『アメリカをぶっ壊そう』と書かれたスローガンが溢れている国で、いざ最高指導者は米国音楽を楽しみ、拍手を送り、米国スポーツに熱狂しているのを、どう理解すれば良いか分からない」というナレーションで閉めている。

米国で午後11時にチャンネルを回しているところで、偶然番組を見てしまった記者も、似たようなことを考えた。果たして、金正恩は、「自分流で生きてきた。悔いはない」という内容の「マイウェイ」を聞きながら、何を思っていたのだろうか、気になった。もしかして、核兵器開発に向かうのが正しいという自惚れに陥ってはいないのか…。