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頭の中「赤いボタン」押すと…「あいつ」の顔が消えた

頭の中「赤いボタン」押すと…「あいつ」の顔が消えた

Posted June. 03, 2013 04:33,   

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息をする度に全身に入り込んだ。「あいつ」のきつい酒の臭いが。荒い息づかい。触られた体を切り裂きたかった。毎夜、あの日の夢を見た。あの日の記憶はチョン・ヨンさん(仮名・32・女)を苦しめた。「必ず殺してやる。今生にできなければ来世で必ず」。毎日怒りが込み上げた。父親や職場上司の顔があの男に見えたりもした。怖かった。このままでは何かしでかすのではないかと思われた。

深い傷が癒えないチョンさんを助けたのは病院ではなく検察庁だった。1月、ソウル南部地検女性児童調査室に設置されたカウンセリング室で、チョンさんは画用紙とクレパスを渡された。チョンさんは芝生と建物を描き、ぼんやり眺め、別の紙を破ってその画用紙の上にのせた。「建物が崩れ落ちました」。涙を流しながらチョンさんが話を続けた。「私もこのように崩れました。なぜ私にこんなことが起きたのか…検察の取調べで白を切るあの男が殺したい。薬も処方されたが効果がありません」

コンビニエンスストアで週末にアルバイトをしていたチョンさんは昨年11月初め、コンビニの店主のA氏に乱暴された。酔ったA氏は倉庫にチョンさんを連れて行き、わいせつな行為をし、性的暴行までしようとした。幼い頃に同様の経験があったチョンさんは日常生活ができないほど大きなショックを受けた。「こうやって狂っていくんだ」と思ったという。

絵を見た韓国表現芸術心理治療協会のチャ・ミジョン芸術カウンセラー(45・女)がチョンさんに言った。「あの日のことを思い出すことは正常です。『忘れなければならない』と抑え込むともっと大きな傷になります。でも覚えていてください。あの日のことは過去にすぎず、現在のチョンさんに何の影響も及ぼしません」。

チャ・カウンセラーは、「あの事件を思い出したら『赤いボタン』を押しなさい」と助言した。頭の中に赤いボタンをイメージし、「あのことは2012年11月にあった。今は2013年○月○」と言う。赤いボタンはチョンさんを暗い過去から現実に引き戻す装置だった。

1週間後、チョンさんの表情は変わった。「よく眠れるようになった。恥ずかしいと思ったことを打ち明けたので吹っ切れたようです。赤いボタンのおかげで気持ちが楽になりました。今は使用回数も減りました」。事件当時から今までの感情を描くように言われ、チョンさんはまずミミズとタマゴを描いた。踏まれて壊れやすい自分を描いたのだ。しかし、最後には掃除機を描き、悪い記憶から抜け出すという意志を表現した。

最後のカウンセリング時間、チョンさんは日差しの中で咲く花を描いた。加害者の裁判に出席すると言った。「あの男は絶対に死ななければならないと思っていたが、今は適切な罪を受ければいいと考えるようになった。幼い頃と違って今回私は賢明に対処しました。自分をほめてあげたいです」。事件後、チョンさんは職場に復帰した。

大検察庁は昨年5月から韓国表現芸術心理治療協会と業務協定を結び、性的暴行や学校暴力の被害者に「表現芸術・心理治療」を実施している。加害者を起訴することで終わらず、被害者の傷を癒すためだ。事件を捜査し、担当検事が被害者の心理状態が深刻だと判断すれば、芸術カウンセリングを受けさせる。被害者は検察庁で3〜30回に渡って芸術カウンセラーに無料でカウンセリングを受ける。検事は、カウンセリングの進行過程を見て、被害者をメンタリングする。

性的暴行の被害者の場合、事前のインタビューと3回ほどのカウンセリングだけでも「心的外傷後ストレス障害」を克服する。学校暴力と違って性的暴行は一瞬にして起こるのが大半なので回復も速い。ソウル南部地検で性的暴行事件を担当するシン・スンヒ検事(38・司法研修院35期)は、「性的暴行の被害者は自分を責め、事件を隠そうとするが、被害の事実を打ち明け、表現しにくい感情を描くことを通じて事件から抜け出すことができる」と話した。芸術カウンセリングが捜査に役立つ時もある。被害者がショックを受けて忘れた事件の一部を思い出すことが多いからだ。

これまで芸術カウンセリングを受けた性的暴行被害者は約20人。大検察庁関係者は、「性的暴行の被害者が後遺症を克服し、犯罪前の状況に回復するよう今年の支援対象を2〜3倍増やす計画だ」と明らかにした。