「君、さらに高い目で、さらに高い山の上で眺めるために一緒にきた岳友、ナム・ウォンウ、アン・ジンソプ、ここヒマラヤの空に魂で残る」
世界最高峰エベレスト（８８５０メートル）へ行く道の丘には山岳人、朴英碩（パク・ヨンソク）隊長が刻んだ碑石が立っている。同氏が１９９３年５月１６日、エベレスト南西壁に挑戦して、後輩２人を失った時に立てた碑石だ。同氏は０７年、同じ場所に挑戦して、オ・ヒジュン、イ・ヒョンジョ隊員の２人をさらに失った。あいにくにもちょうど５月１６日に事故に遭った。彼は諦めず、０９年とうとうエベレスト南西壁に登り、４人の写真を取り出して「ありがとう」と言って泣いた。
０５年、世界で初めて地球上の３極点であるエベレスト、南極、北極とヒマラヤ８０００メートル級１４座、７大陸最高峰を全て登る「山岳グランドスラム」を達成した彼だったが、大記録を立てた後も心の傷が残っていた。後輩４人の命を奪ったエベレスト南西壁だった。脚の筋肉が破裂したまま登った。新しい道を切り開いた。「コリアンルーツ」と名づけた。ヒマラヤ８０００メートル級１４座に全てコリアンルーツを作ろうとした。彼の残りの人生最大のプロジェクトだった。極限地域で誰も行かない道を開拓し、韓国人の挑戦精神を永遠に記録するのが目標だった。
●記録と業績
４歳の時、父親と北漢山白雲台（ブッハンサン・ペクウンデ）に登った。人生初の「完登」だった。浪人生活を経て、山岳部で有名な東国（トングク）大学に入学した。１９９３年、アジア人として初めて無酸素エベレスト登頂をした。８年２ヵ月にわたったヒマラヤ８０００級１４座登頂の序曲だった。１９９７〜１９９８年の１年間８０００メートル級の６座に登った。１年間最多８０００メートル級登頂記録でギネスブックに載った。
０１年、悪名高いＫ２（８６１１メートル）を最後に８０００メートル級１４座に全て登った。０２年南極のヴィンソン・マシフ（５１４０メートル）に登って、７大陸最高峰にも全て上った。０４年南極、０５年に北極へ行った。山岳グランドスラムだった。
●負傷と起き上がりこぼし
朴英碩隊長は１９９１年、エベレスト南西壁で１００メートルを転がり顔の骨が見えるほど怪我をした。麻酔もしないまま縫った。１９９６年、エベレスト北東陵では雪崩に巻き込まれた。７００メートルを墜落した。肋骨２本が折れた。同行したシェルパは命を失った。折れた骨を自らくっつけて帰ってきたこともあった。
●仲間らの犠牲と彷徨
彼の道で数人が命を失ったが、いつも後輩らが喜んで同行した。頑固だったが、お兄さんのようだった。０７年、２人の隊員を失った時、引退を考えた。２人は彼の家で数年間同居してきた仲だった。髪の毛を全部剃った後、毎日お酒を飲み、彷徨した。幻聴にも悩まされた。しかし、「私は休むことができない」と行った。「２人の分まで生きなければならない」と言った。
●山へ行った理由
答えは、「山へ行くと、気が楽になる」だった。一方では韓民族について話した。山へ行って最も粘り強い根性を見せるのはいつも韓国人の山岳隊だったとし、「凄い民族、粘り強い民族」と言った。彼はこのような韓民族の根性を広く知らせたがっていた。世界中にコリアンルーツを作ろうとするのもこのためだった。彼のスローガンは、「国土が狭かったら、考えの大きさで立ち向かえ」だった。
●成功へのプレッシャーと食客・朴英碩
彼は「一番怖いのは私自身」と言った。登山隊長として間違えた決定を下すことを心配した。しかし、各種後援を受ける遠征隊は、成功へのプレッシャーも大きかった。アウトドア活動家で彼と付き合いが深かったソン・チョルウンさんは、「刃物を取り出すより、鞘におさめるのが難しかったと良く言った」とし、朴さんの悩みを思い浮かべた。欲張ったら皆が危険になる。朴隊長はいつもこのような点を念頭に置いていた。彼は山での生活のため、料理の達人になった。特に、刺し身が得意だった。山岳人にしては水泳やお釣り、モリが上手だった。
●経済問題と家族生活
登山のため、新婚のお礼の物を売ったりもした。結婚して８年ぶりに初月給をあげたという。妻が一時、き鶏カルグッス食堂を運営した。チョンセ（伝貰）保証金で登山に出たことも多い。遠征隊の荷物が規定重量を超過して別途の料金を課された時、「私が学生だ。お金がない」と数時間言い続けて通過したりもした。愛唱曲は、「バカのように生きたんですね」だった。もう彼の歌は聞くことができない。２男のうち長男はプロゴルファーを目指している。
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