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[オピニオン]匿名

Posted July. 08, 2008 09:20,   

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「人々の心を動かせる文章を掲載したかったまでですが…」。「疲れました」というタイトルの文で、戦闘警察隊(日本の機動隊)全員がデモへの鎮圧命令を拒否することにしたという虚偽の事実をインターネットに掲載して、先日拘束されたある大学非常勤講師の遅い後悔だ。このように学識を持つ知識人の倫理をも武装解除させるほど、匿名性の魔力は大きい。身元が判明した状態では到底できない言葉や文を何の躊躇もなく掲載できる蛮勇は、ほかならぬこの匿名性という保護膜が提供してくれるものだ。

◆米社会心理学者のスコット・フレイジャーは、一台の自動車を人々の往来の激しい道端に、もう一台を人通りのまばらな道端に止めておいて、運転手がしばらく席をはずしたように見せかけて観察を行った。その結果、人々の往来の激しい道端にとめておいた自動車には何も起こらなかったが、人通りのまばらな道端に止めておいた自動車は、26時間後には最後の一つの部品まで完全になくなった。匿名が保証される時、人々は理性や面子を投げ捨て、反社会的な行動に走る可能性が高まることを示す実験だ。

◆しかし、表現の自由に関連しては、匿名性の肯定的な側面もある。言論の自由のない独裁政権や宗教の権威が大手を振る社会では、本来の名前を隠して偽名を使い、意見を展開することも珍しくない。日本植民地時代の文人の李陸史(イ・ユクサ)や金永郎(キム・ヨンラン)なども仮名だった。外国でも同様だ。文学史に名を残したジョージ・オーウェルやマーク・トゥウェイン、エドガー・アラン・フォーは皆仮名であり、さらにシェークスピアすら仮名だという説もある。多くの哲学者が仮名で作品を発表した。

◆ノーベル文学賞を受賞したトルコ人作家のオルハン・パムク氏は先日、作家の李文烈(イ・ムンヨル)氏との対談で、「匿名は真実を語ろうとすう人を保護する側面がある」と語った。原則的には正しい言葉だが、うその情報や相手への中傷、魔女狩りが飛び交う昨今の韓国のインターネット文化では、適用しづらい。群衆の中で個人は自由を感じるように、「相手は自分が誰か分からない」という意識は、インターネットの空間をアノミーへと向かわせる。ネットユーザー自らが悪意の書き込みを追放させ、責任ある書き込みを掲載することこそ、表現の自由やインターネットを共に再生する道だ。でなければ、匿名性の幕を取り払い、実名を明らかにせざるを得なくなる。

鄭星姫(チョン・ソンヒ)論説委員 shchung@donga,com