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傷付けられた霊魂ら、洞くつに隠れる

Posted June. 08, 2007 04:36,   

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文学で発言しなければならない社会的な責務も、大事にしまっておいたり憤慨しなければならない体験や記憶もない場合、小説家は一体どんな物語を書くのだろ、か。キム・ミウォル氏(写真)の小説集『ソウル洞窟ガイド』(文学と知性社)は、この質問に対する一つの答えだろう。

同氏は、発表する作品ごとに深い問題意識と高い完成度で注目されてきた新人だ。キム氏はむつまじい中産階級の家庭で成長し、「社会的に悩まなくても、特にそれが負担にならない」時期に大学に通った。猛烈に書かなければならない何かがあったわけではないが、同氏は小説家になるのを夢見ていた。『ソウル洞窟ガイド』はそうしたキム氏の初めての結実だ。

短編『ナクル』は、インターネット・カフェーでアルバイトする話者の物語だ。自殺した未婚の母の娘であり、認知症の祖母と暮らしているが、話者はロール・プレーイング・ゲームにはまっているときだけは、憂うつな現実を忘れられる。表題作『ソウル洞くつガイド』で、ソウルの人工の洞窟で働く話者には、幼いごろ事故で母を失った傷がある。

話者が暮らしている高試院(コシウォン、国家試験を準備する人のための私設の寮)の隣の部屋では毎晩うめき声が聞こえてくるが、後でそれがビデオの音であることが分かる。それだけではない。親を失ったのも悲しいのに、腹違いの弟を育てなければならなくなったジョング(『(株)ハッピーデイ』)や、性的暴行を加えたお隣のおじさんを養父として受け入れなければならないギファン(『小部屋』)など、小説の主人公の大半が、家族環境で心に傷を負った人々だ。

そして、それらはたいてい傷だらけだけの現実から逃避する場所として、人工の洞窟やコンピュータ・ゲームなどといった、にせものの現実を選んでいる。小説の人々とは違って、両親から愛されながら育ったというキム氏。そうした同氏はある瞬間、よく笑い元気いっぱいだった母が、実は苛酷な嫁入り暮らしに耐えていたのと同じく「明るくて元気そうに見える人も、一つ一つ問題を抱えている」とのことに気付いたという。

「そうした諸問題に想像を加え、多様な物語を作っただけ」だが、同氏の小説は「個人楽園の独りぼっち」(評論家イ・グァンホ)という現代の暗い陰を象徴している。



kimjy@donga.com