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心の中の死の影を「祝福の光」として灯す

心の中の死の影を「祝福の光」として灯す

Posted May. 19, 2007 04:06,   

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主婦のソン・ヨンへ氏(58、ソウル龍山区二村洞)は、明るい顔で、時折、笑顔を見せた。他人の話をいつもよく聞き、理解を示した。周辺の人たちはソン氏を見ると首をかしげた。「あの人、本当にガン患者なの?」という疑問を抱いたからだ。一般人だけではない。

彼女が最近暮らしているソウル新村(シンチョン)セブランス病院・がんセンターに入院している患者たちも同じだ。

ガンはもはや不治の病でも難病でもないといわれているが、依然として死と隣り合わせの病気だ。ソン氏は乳房でできたガン細胞が脊髄や脳に転移し、現代医学では治療が難しい末期ガン患者だ。

先月24日、ソン氏と初めて会った。それ以後、病院側の協力を得て、さらに4回あって話を交わすことができた。顔には病気の気配が色濃く残っていたし、絶え間なく催される吐き気のため、声をかけることすら気が引けたが、彼女の顔からは笑みが絶えなかった。

ソン氏は、3年前に乳ガンの手術を受けたが、昨年4月にガンが再発した。抗ガン剤の治療を着実に受けたけれど、効き目がなく、治療を中断して兄の家族のいるアメリカに渡ったが、急に体調が悪化し、再び入院した。

しかし、ソン氏は死を目前にした人とは思えないほど淡々としているように見えた。もちろん、最初のショックはものすごかった。不安や憤り、絶望など、ガン患者が経験する典型的な過程を彼女も経験した。

「最初は不安でした。何でも初体験はそうでしょう。スキーをするときも倒れる前までは不安じゃないですか。でも一度転んでからは、かえって自信がつきますね。私もガンを受け入れてからは気持ちが楽になりました」

もちろん一日に何度も心が作り出す天国と地獄を行き来するのはどうしようもないとも言った。何回も吐き気を催し、激しい腰の痛みが訪れると、つらすぎて早く生を諦めたいという衝動に駆られる。

しかし、ソン氏は明日にも自宅に帰る人のように、息子の結婚のことや冬の間に食べるキムチのことなどを心配する。

「明日、自分は果たして再び目を覚ますことができるだろうか、と考えながら眠ります」

一般人にとって「死」は抽象的な観念にすぎないかもしれないが、彼女にとって死は現実だ。

ソン氏は、「ガン」という死神のおかげで新しい人生を得たと話す。「先日、タクシーに乗りましたが、若いタクシー運転手から『賭博のせいで妻から離婚されて、今はあまりにもつらいですよ』と言われました。その話が終わるまで聞いたあと、このように言ってあげました。『私は末期のガン患者です。運転手さんは私より健康だから、これから長い人生を生きられるじゃないですか。すべてのことを前向きに受け入れ、一所懸命に頑張ると、必ず成功できると思います』と」

その瞬間、若いタクシー運転手の顔色が変わった。ソン氏は自分のアドバイスに感動したその運転手の顔を忘れられないと言った。自分の消えていく命が他人に希望や勇気を与えるということがわかった。

ソン氏は去年から真心を込めて準備した食べ物を手に持って少年院の子供たちを訪ね始めた。幼い時から早くも心を扉を閉ざしてしまった子供たちが自分を嬉しく迎えてくれる時は、心の充実感を感じた。

「私のように不完全で病気の人間が健康な人たちの世話をできるなんて、祝福ですね。健康な時は気づかなかったんですが、体は健康でも心を病んでいる人たちも多いですね」

ソン氏は今回入院しながら、「ひょっとしたら、最後になるかも」という気がして、身の回りを整理した。本や食器、一時宝石輸入のマーケティングをしながら集めた貴金属まですべてを他人にあげたり捨てたりした。

「最後だと思ったら、すごく切なかったんですが、無駄なことだと思いました。『あまりにも欲張りだったな』という反省もしました」

ただ一つ「整理」できないのは一人息子だ。15年前に夫と死に別れて、一人の息子を育ててきたソン氏は、「ててなし子」と周りから後ろ指を指されないように、息子を厳しくしつけて育てた。そのせいか、息子は心の扉を閉じてしまった。

息子は今年で33歳だ。二人は一つの屋根の下に住みながらも話し合いもせず、他人のように暮らした。体が健康だった時も、息子はいつも胸に残っている大きなしこりだった。

ソン氏はある日、静かに息子を呼び出した。話したいことはたくさんあったが、なかなか口を切れなかった。先に口を開いたのは息子のほうだった。

「これまで僕のためと思って言ってくれたことに傷ついたことも多くあったよ。1年でもいいから生きていてくれたら、本当に親孝行したいのに…」

親子は抱き合って大声を上げて泣いた。ソン氏は、「私もやはり初めて息子に謝りました」と語る彼女の目頭が熱くなった。

「すべてガンのおかげですね。こいつがなかったら、いまだに息子とは他人のように暮らしていたかもと思うと、ぞっとしますね。このごろは、息子と毎日、恋人のように電話をしながら暮らしています」

死を目の当たりにしてから謙遜になり、正直になったというソン氏は、「息子が幸せに暮らすことが私のただひとつの願いだ」と語った。

「人から言われます。まだ若くてやりたいこともたくさんあるだろうに、難病にかかって死ぬ日だけを待つなんて、かわいそうだと。私も悲しいと思いました。でも欲を捨てたら気持ちが楽になりました。一日一日、平凡な日常のなかで大切なことをもっと探し、そのためにベストを尽くすつもりです」



likeday@donga.com