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「キャビネットの外の世界に、もっと驚きませんか」 小説『キャビネット』

「キャビネットの外の世界に、もっと驚きませんか」 小説『キャビネット』

Posted December. 22, 2006 03:28,   

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「何を想像しても、それ以下のものを見ることになるだろう」(小説導入部で)

優雅でロマンチックな想像をするならの話だ。だからといって、『キャビネット』の中では、すてきなラブストーリーが出てくると思ってはいけない。あるいは、素適な世相風刺が、または雄大な歴史物語が出てくると。

作家・金オンス(34)氏の長編小説『キャビネット』(文学トンネ刊)には、まったく異なるものが入っている。それはシンプトマー(symptomer)の話だ。例えば、男性の性器と女性の性器を同時に持っている者とか、指でにおいを嗅ぐことができる者のことだ。公企業の職員が会社で見つけた13号キャビネットの中にある375人のうちの一部だ。彼らは、変種形態、いわば「X—men」のような人々だ。

「ジャック・アタリーの『21世紀辞書』を読んで…突然、思いついたんです。トポラー(toporer)の話を書いてみようと。しかし、書いてみると、タイムスキーパーも出てきて、ネオ・ヘルマフロディトスも出てくるんです」。トポラーは、6ヵ月近く眠ってばかりいる人々の話だ。タイムスキーパーは人生で数時間や数日間の時間を忘れてしまう人々の話、また、ネオヘルマフロディトスは男女の性器を同時に持ち、自己受精も可能な人々の話だ。本には、このような想像不可の変種の話であふれている。

「アラビアンナイト」のようなエピソード集であり、SF小説のようでもある異様なこの作品に驚くほどのめり込める物語になっている。数章も進まずに、次はどんなX—menが出るのか知りたくなるほどだ。

このように、想像力で充満した金ムオンス氏が打ち明ける人生の履歴はというと、驚くことに「設備労働、クラブのウェイター、工場労働者」などの体当たりの体験でいっぱいだ。17歳の時から詩人を夢見て、高校の文芸クラブ時代には詩だけを書いていたが、「10年経って自分は詩人にはなれないと悟った」。

軍を転役し労働現場で働いたが、「金君、私は設備だけを30年してきたが、30年前も今も暮しは同じだ。君は若いから、別のことをしろ」と言われ、大学修学能力試験(日本の大学センター試験に相当)の勉強を始める。国文科に入ったが、詩人ではなく小説家になることを決心し2003年、東亜(トンア)日報の新春文芸中編部門に当選して小説家として登壇した。

『キャビネット』は、金氏が昨年、慶尚北道(キョンサンプクト)ポンファの考試院で書いた小説だ。第12回の文学トンネ小説賞に応募し、「韓国文学はまた一人の怪物のような作家を生んだ」(評論家リュボソン)という賛辞が出るほど、高い評価を受けて当選した。

「ただの平凡なキャビネット」と言ってしらを切る作家。だが、エピソードの末尾に込められた現代人の病を皮肉る短い断想は、この「キャビネット」が、ただ奇抜で面白いだけの話箱ではないことを悟らせてくれる。

「キャビネットは…、私は、小説家は話を入れて置く技術者だと思っています。敵対的で矛盾で異質で理解できない存在を、生きる方式そのままで、傷つけずにキャビネットに入れて置く…」

だから、この小説は、「小説を書くとは何か」に対する巨大な比喩であるといえよう。



kimjy@donga.com