一言でいうと、俳優も映画も「非主流」の勝利だった。第７８回アカデミー賞授賞式で、作品賞を受賞した『クラッシュ』（ポール・ハギス監督）や監督賞を受賞した『ブロークバック・マウンテン』のいずれも、米国社会の暗い一面やタブーを正面から扱った作品だ。今年の授賞式は、当初、『ブロークバック・マウンテン』の一方的な祝宴になると予想されたが、『クラッシュ』の終盤の追い上げで幕を閉じた。
『クラッシュ』は、米国社会のトラウマ（精神的外傷）ともいえる人種問題を描いた。ロサンゼルスを舞台に、米国社会の葛藤を繊細に捉えたと評価された。白人と黒人の葛藤を対立構図にしているが、ヒスパニック系やアラブ系のアメリカン・ドリームへの挫折も描き出している。
昨年８月に米国で上映され、６５０万ドルという最低予算のインディーズ映画としては成功したにもかかわらず、バックス・オフィスでは注目されなかった。しかし、今回の授賞式の前にＤＶＤが発売されて話題になり、『ブロークバック・マウンテン』を超えるかもしれないと予想された。『クラッシュ』を選んだことについて、アカデミー賞が、米国保守層が「嫌悪」するテーマである同性愛問題よりも、だれもが明白な政治問題として認識していると同意できる人種問題を選んだと、後に評価された。
いずれにせよ、２００６年のアカデミー賞は、最近もっとも政治的で敏感なテーマの映画、さらにメジャー・スタジオの製作ではなく、すべてインディーズ性の強い映画を選んだという点で、注目に値する。さらに、米インディーズ映画の立役者であるロバート・オルトモン（８１）に名誉オスカー賞まで与えたことで、今年は名実共に「インディーズ映画の年」となった。
男女主演賞の受賞者も、「非主流」という点では同じだ。主演男優賞は、『ティファニーで朝食を』の作家で、死刑制度に問題提起をした実在の人物トルーマン・カポーティの伝記映画『カポーティ』で熱演したフィリップ・シーモア・ホフマンに与えられた。晩年助演から脱し、初主演でノミネートされ、主演男優賞の栄光を得た。韓国国内でも９日に上映予定の『ウォーク・ザ・ライン／君につづく道』で、初の主演女優賞を手にしたリース・ウィザースプーンも、初めてのノミネートで受賞の栄誉にかがやいた。『キューティ・ブロンド』でスター級にのし上がった彼女は、軽い映画が専門だと言われていたが、今回の受賞で、スター性と演技力を兼備した最高の女優として認められた。
今年は、多くの話題作がノミネートされ、授賞式のムードも例年になく緊張していた。終始、司会者や受賞者たちの政治的ジョークやコメントが続き、米国内の進歩的集団として通っているハリウッドの顔、彼らの映画哲学から、最近の米国社会が抱える悩みの一面をうかがわせた。
「映画の基本は、ストーリー・テーリングだ。つまり、人間的なことから出発する。それを通じて、映画は全地球の人々とつながる。技術は発展し続けるが、語るストーリー・テーリングの核心は、長く維持されるだろう。…ニューオーリンズでは現在、６つの映画が撮影中だ。地元住民６００人が、新しい仕事を得た。これこそ、被害復旧の一環として映画も貢献できることを示している」。（映像芸術科学協会会長シード・ゲニス）
「芸術はただ社会を映す鏡であるだけではなく、社会を変えるハンマーだ」。（脚本賞受賞者ボビー・モレスコ）
石油取引をめぐる国際紛争を描いた『シリアナ』で助演男優賞を受賞したジョージ・クルーニーは、「ハリウッドは、黒人が劇場で白人と同じ席に座ることができなかった時代である１９３９年に、黒人のハティ・マクダニエルにオスカーを与えた場所だ。そのグループの一員であることを誇らしく思う」と、受賞の所感を語った。『ナイロビの蜂』で助演女優賞を受賞したレイチォル・ワイズも、「不正に対抗するために命をかけた人々」に言及し、厳粛なムードをつくった。
授賞式中間の特別プログラムでは、『大統領の陰謀』『波止場』『エリン・ブロコビッチ』『フィラデルフィア』『スミス都へ行く』などの古典映画から現代モノに至るまで、不正と偏見に対抗した主人公の映画を編集して披露した。
女優たちの衣装も、落ち着いて優雅なスタイルが主流だった。黒いドレスも多かった。アカデミー賞執行委員会が、トム・ハンクスをモデルにして作った８分のビデオ「内部ガイド：受賞候補が知っておくべきこと」を事前に配布したためか、大半が受賞の所感も短かった。このビデオは、受賞台まで歩いていき、あまり長く抱擁せず、短く話すなどの要領を紹介し、受賞者たちはこれに忠実に従った。外国語映画賞に選ばれた南アフリカ共和国の映画『ツォツイ』の受賞者は、「受賞コメントは、サイトで確認してください」と言って笑いをさそった。
angelhuh@donga.com
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