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[オピニオン]「釜山行き」とゾンビ

Posted August. 10, 2016 07:05,   

Updated August. 10, 2016 07:23

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映画『釜山(プサン)行き』が観客動員1千万人を突破した。釜山行きのKTXで正体不明のウイルスに感染してゾンビになった人々とのすさまじい死闘、生存本能の醜悪な素顔を描いたヨン・サンホ監督の作品だ。カンヌ映画祭の中でも興行性と作品性を兼ね備えたジャンル映画だけが招待される「ミッドナイト・スクリーニング」でスタンディングオーベーションを受けて期待を集めた。しかし、韓国の観客の好みに合わないとされるゾンビ物が大ヒットしたことは異例だ。

◆「生きている死体」として登場するゾンビは、カリブ海地域の伝統宗教であるブードゥー教で生まれた概念だ。ブードゥー教の司祭は、健常な人を仮死状態のゾンビにしてこき使うという。大衆文化にゾンビが入ってきたのは1968年の映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』から。ゾンビ映画のモデルになったこの映画で、ゾンビは生きている人を噛んで脳を破壊して動作を止め、そのゾンビに噛まれた人はゾンビになる。この単純なパターンを繰り返すゾンビ映画が多く出てくる理由は、ゾンビが現代人が感じる恐怖と不安を象徴するためだろう。

◆『釜山行き』の成功要因も、恐怖と不安の韓国の現実が適切に溶け込んでいるところにある。仕事のために家庭に疎かにした夫、収益が出る「作戦」もはばからないファンドマネジャー、「勉強ができなければあの人(ホームレス)のようになる」と子供に忠告する大人。極限状況で良識と共同体を守ろうとするのは子供と若者だけで、多くの大人は生きるために他人を踏みにじる。「ゾンビより人がもっと怖い」という台詞は映画の核心メッセージだ。

◆映画は死に直面した状況で誰が最後まで人間らしさを守ることができるかを問うが、危機を解決できない政府に対する批判も暗に含んでいる。ゾンビの出現を「暴動」と発表し、混乱した状況でも「国民の皆さん、安心してください」と繰り返す政府は、セウォル号と中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス感染拡大事態に無能な対応をした政府を連想させる。当然死ぬべきものが死なずに徘徊するのがゾンビだ。寿命を終えても生きているふりをする存在が映画の中のゾンビだけだろうか。

鄭星姫(チョン・ソンヒ)論説委員shchung@donga.com



정성희기자 チョン・ソンヒ記者 shchung@donga.com