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[東京小考] 名誉毀損の起訴で毀損される名誉

[東京小考] 名誉毀損の起訴で毀損される名誉

Posted October. 23, 2014 05:39,   

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拝啓 朴槿恵大統領

 セウォル号事件の後始末もなかなか進まぬ中で、次々に起きる大型事故。内外に山積する難題。大統領として心休まる日のないこと、お察し申し上げます。

 さて、突然お便りを差し上げたのは、そんな日々の中、大統領が心の余裕を失っておられるのではないかと心配になったからです。外でもありません。産経新聞ソウル支局長が名誉毀損罪で起訴されたことです。

 いえ、私とて産経新聞デジタル版のあの記事に、大統領が怒りをたぎらせたことはよく分かります。よりによってセウォル号事件が発生したその日に公務を放り出し、男性と密会していたのではないかと、根拠薄弱な噂話を書かれたのですから。「韓国と結婚した」と公言する大統領の無念は想像に余りあります。

実は、一国の元首に対して何とも失礼な記事だと感じていた日本人は多かったのです。まるでゴシップ週刊誌の記事みたいだと、恥ずかしさを口にする人もいました。その後に記事が事実無根とはっきりしてみれば、なおのことでした。

 ところが、です。筆者のソウル支局長が告発され、刑事的な捜査対象になると、空気は変わりました。記事になった噂話はもともと韓国の新聞が書いたのが発端でしたし、この記事が犯罪になるとまでは私にも思えません。産経新聞とは対極的な立場にある朝日新聞すら、社説で韓国に懸念を伝えました。フランスに本部を置くNGO組織「国境なき記者団」も警鐘を鳴らしました。日本政府も憂慮を伝えていました。

 にもかかわらず、韓国の検察庁は起訴に踏み切ったのです。被害者である大統領の同意があったからに違いありません。これは「報道の自由」を公権力で侵す行為だとして、日本の報道機関は一斉に反発し、日本新聞協会は大会で抗議の決議をしました。

 何だか妙な展開になってしまったとぼやく日本の記者たちの声を耳にします。報道の自由や民主主義をかざして戦うにしては、あの記事が余りにつまらないものだからです。産経新聞社が発行する夕刊紙が日ごろ「嫌韓」報道の先頭を走っていることに、眉をしかめる人も多いからです。

なのに、韓国が起訴に踏み切ったため、産経新聞が被害者になってしまったのです。逆に、韓国は言論を厳しく弾圧していた古い時代を思い出させ、国際的イメージダウンにつながりました。せっかく首脳会談の実現に向けて少し動きだしていた日韓外交も水を差されました。

 私は、大統領が野党の党首だった2006年に来日した折の記者会見を思い出します。「竹島(独島)問題を解決するには」という質問を受け、どう答えるか、皆がかたずを飲んで見守る中、あなたは笑みをたたえてたった一言。「日本が独島を韓国の領土だと認めてくだされば解決します」。当時、盧武鉉大統領がこの問題で激しい日本批判を展開していたのとは対照的に、韓国の原則を述べつつ軽くかわす余裕がうかがえ、日本の記者たちからは笑いが漏れて終わりました。

 大統領、どうかその余裕、ユーモア感覚を思い出していただきたい。問題の記事に関する勝負はすでについていたのですから、公権力を振るうに及びません。過ぎたるは及ばざるが如し。むしろ「そんなスキャンダルを創っていただくとは、私も人気女優なみで光栄ですわ」とでもコメントしていれば、「さすが」となったことでしょう。

裁判で、もし無罪となれば検察も大統領も面子がつぶれます。有罪となれば韓国の国際的なイメージはまた落ちるでしょう。どちらに転んでも、韓国にとってよいことはない。名誉毀損罪を乱用することで毀損されるのは韓国の名誉、そして大統領の名誉ではないでしょうか。

おっと、私もこんなことを書いて、大統領の名誉を傷つけたと思われるかも知れません。失礼の数々、どうぞお許しください。

若宮啓文(日本国際交流センター・シニアフェロー、前朝日新聞主筆)