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[東京小考] 原爆コラムと「ムクゲノ花ガ咲キマシタ」

[東京小考] 原爆コラムと「ムクゲノ花ガ咲キマシタ」

Posted November. 13, 2013 12:03,   

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広島や長崎に原爆が落とされたのは日本に対する神の懲罰だったというコラムが韓国の有力紙に載ったのには驚いた。被爆者だけでなく多くの日本人の怒りを買ったのも無理はない。

もし神の懲罰だったのなら、あの原爆で多くの韓国人も犠牲者になったのはなぜなのか。同じ民族が血で血を洗い、原爆以上の死者を出した朝鮮戦争は何の懲罰だったのか。ついそんなことを問いたくなったが、戦争のどこにも神の意思などない。戦争は神の手を離れた人間たちの、もっとも醜い営みであり、原爆はその行き着く末だったのだ。

コラムの引き金となったのは「731」だった。安倍晋三首相が機体に731と番号が書かれた自衛隊の練習機に試乗した様子が、中国や韓国には刺激的だったのだろう。旧日本軍の731部隊が第二次大戦中、生物化学兵器をつくるために捕虜を人体実験の対象にして、多くの死者を出したのは日本の汚辱の歴史。なのに、わざわざ731の機体に乗り込むとはどういうつもりか。韓国でのそんな報道ぶりが「原爆は懲罰」のコラムにもつながったのだろう。

安倍首相も自衛隊も、わざわざ731を選ぶわけはなく、悪意はまったくなかったに違いない。偶然のできごとをそんなに大げさに騒がないでもらいたいが、一方でこんな番号の機体を用意する自衛隊もあまりに無神経だった。731という数字に過剰反応する韓国と、鈍すぎた日本。この落差に、いまの日韓の行き違いが象徴されている。

それにしても、昨今の日韓関係は寒々しい。昨年来とげとげしくなっていた関係を双方の新政権が立て直してほしいという願いは、いまのところ全くの当て外れだ。私がソウル暮らしを始めた3月からはますます悪化。日本維新の会の橋下徹代表からは慰安婦問題をめぐる問題の発言が飛び出し、今度は韓国で「原爆コラム」の登場だ。

日本でヘイトスピーチを繰り返す低劣な反韓デモの様子が韓国のニュースにしばしば登場する。一方、日本のテレビではソウルの日本大使館前で安倍首相らの写真を踏みにじる刺激的な映像が伝えられる。これだけを見れば、まるで開戦前夜のようではないか。

ふと、かつて韓国で大ベストセラーになった金辰明氏の小説「ムクゲノ花ガ咲キマシタ」(93年発売)を思い出した。南北朝鮮が核兵器の共同開発を極秘で進め、日本が竹島(独島)を軍事占領したのに対抗して日本の無人島に核が打ち込まれる。「ムクゲノ花ガ咲キマシタ」は核の攻撃のゴーサイン。衝撃のストーリーは日本でも話題になり、翌年には翻訳本も発売された。

もちろん荒唐無稽な小説ではあるが、いま読んでみると、当時とは少し違った現実味が感じられることに気がついた。

まず、よもやと思われた核の開発が本物になった。さすがに南北共同ではないが、北朝鮮が本当に核実験や弾道ミサイルの発射を繰り返している。

一方、小説では90年代に日本が憲法9条を改正し、軍事強国になっていた。もちろん、現実はそれには遠いが、昨今、日本の首相が9条改正による国防軍の創設に旗を振るのは間違いない。

竹島はどうか。かつては棚上げされていた領有争いがしだいにヒートアップして、対立ムードが高まっている。

そして、日韓に見られる憎悪の応酬である。小説が出た93年といえば、日本の細川護煕首相が金泳三大統領との会談で過去を歯切れよく謝罪した歴史的な年だった。これを皮切りに90年代の両国関係は好転して行っただけに、当時は時代錯誤の小説だと感じたが、いまや時代の方が逆行してしまった感がある。

 思えば、私が31年前にソウルに留学していたころも大変な騒ぎがおきた。日本の歴史教科書が「歪曲された」と指弾され、韓国の新聞やテレビは連日、日本を標的にしていたたまれなかった。「日本人はお断り」の食堂やタクシーまで表れ、私も飲み屋で見知らぬ男に怒鳴られたりもした。そしていま、久々のソウル暮らしを始めたら、このありさまだ。ひょっとすると私が疫病神なのかと気になってしまう。

だが、当時に比べると韓国民には大きな余裕がうかがえるのがうれしい。そしてまた、日本でも大半の国民は政治家よりも落ち着いている。

それが証拠に、あの発言以来、橋下氏の人気はすっかり落ちて、維新の会は危機にある。憲法改正論も国民の間で盛り上がらず、安倍首相の熱気もこのごろ少し冷めてきた。もちろん竹島への武力行使など誰も夢想だにしていない。

お互いに極端な部分だけに目を奪われまい。南北朝鮮で核の共同開発どころか、いまやるべきは日韓が一緒になって北の核に対処することだ。「ムクゲノ花」を読みながら、つくづくそう思ったのである。

(若宮啓文・日本国際交流センターシニアフェロー、前朝日新聞主筆)