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壮大、華やか、パステルトーン…「体制宣伝ための巨大セット場」

壮大、華やか、パステルトーン…「体制宣伝ための巨大セット場」

Posted June. 30, 2018 10:32,   

Updated June. 30, 2018 10:32

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「ここはドバイか、フロリダか」

北朝鮮の平壌紋繍(ピョンヤン・ムンス)の室内外プール場を訪れた英国の建築家リヴァー・ウェインライト氏は驚いた。きらきら光るクリスタルの天井、人工岩にぶつかって立ち上がる水しぶき、滑り台を滑って楽しそうに笑う子どもたち、アイスクリームを食べてスマートフォンで写真を撮る観覧客・・・。彼が想像していた北朝鮮の姿ではなかった。世界のどこに出しても引けを取らない観光大国になる日は遠くないように見えた。

この童話のような景色に浸っていた彼を現実に呼び戻したのは、まさにプール場のロビーに立てられた、まるで実物のような金正日(キム・ジョンイル)総書記の銅像だった。北朝鮮で、金日成(キム・イルソン)―金正日―金正恩(キム・ジョンウン)3代父子の銅像や肖像画が飾られていない建物はなかった。建築物の美観に合わなくても銅像と肖像画は常に中心部に位置を占めていた。すべての建築物は敬愛する指導者の恩恵で建てられたため、業績をたたえる銅像を建物の正面に置くことは北朝鮮では当然のことだった。

● 「建築の匠」金正恩氏

英紙ガーディアンとタイムズに建築関連の寄稿をするウェインライト氏は、2015年に平壌(ピョンヤン)を訪れ、紋繍プール場をはじめ北朝鮮が誇る建築物を見て回った。北朝鮮パックツアーに参加し、10日間ほどしか平壌にいることができなかったが、彼は建築専門家の目で約200枚の写真を撮った。彼の北朝鮮旅行記と写真を載せた本『Inside North Korea』が22日(現地時間)、英国で出版された。ガーディアンなどに掲載された著書の書評には、建築専門家の目で見た北朝鮮建築の過去と現在、未来が興味深く描かれている。

ウェインライト氏が見た平壌は、フォークリフトなどが一日中行き来し、同時多発的に建設工事が行われている所だった。異邦人の耳には騒々しい建設ブームは、正恩氏の執権後、本格的に始まったという。「ピョンハッタン」(平壌+マンハッタン)と呼ばれるヨミョン通りの超高層マンションをはじめ紋繍プール場、未来科学者通りなど多くの建築が新たに建てられたり改築された。

米朝首脳会談前、外国での正恩氏のイメージは核の脅威を振りかざす分別のない指導者だったが、北朝鮮住民の評価は完全に違った。正恩氏は一種の「建設の匠(master builder)」で通じた。新興の北朝鮮中産層の欲求が何かを知り、その欲求を満たす現代的建物と施設を作り出せる「守護神(champion)」のような存在だった。

ウェインライト氏に同行した北朝鮮現地ガイドは、北朝鮮では最近、「平壌速度戦」という言葉が流行っていると自慢気に話した。過去、金日成時代に「千里馬速度戦」があったなら、今は平壌ではやく建物を建てるよう指導部が速度戦を命じたということだ。そのため、2014年、平壌・平川(ピョンチョン)区域の23階マンション団地の崩壊事故のような欠陥工事が続いている。

●旧ソ連とパステルカラー

ウェインライト氏が注目した北朝鮮建築の特徴は大きく2つ。まず、北朝鮮は旧ソ連の建築の影響で、どんな建物でも華やかで壮大に建てるのが特徴だ。多くの北朝鮮の建築家は旧ソ連で教育を受けたので、ソ連式の建築に馴染みがある。1989年にソ連の建築技術を組み合わせて建てられた綾羅島(ヌンラド)5・1競技場は、収容人員15万人で世界最大のサッカー場だと、北朝鮮は宣伝する。

北朝鮮は大きく建てるだけではなく、古典主義的技巧を通じて建物の美的感覚を引き上げる。ソ連のネオクラシック建築様式を受け入れた代表的なものが平壌の地下鉄駅だ。平壌の地下鉄駅で最大きい光栄駅は、華やかで美しい天井を誇る。細かく彫刻された石造柱が波打つように天井を支え、中央にはシャンデリアが光を放っている。

北朝鮮は自分たちの建築が単にソ連を模倣したのではなく、自主的な主体思想の結果だと宣伝する。1950年代、金日成主席は平壌を指して、「主体建築の偉大な庭園にならなければならない」と強調したことがある。平壌の地下鉄駅の石造柱は、単に美しさのためのものではなく、西欧帝国主義に対抗した金主席の闘争と北朝鮮人民の自由と繁栄に向かった意志を形象化したものと北朝鮮当局は説明する。

北朝鮮建築のさらなる特徴は、パステルカラーの過度な使用だ。ソ連式建築が金日成、金正日父子2代の流行だとすれば、26歳で政権の座に就いた若きリーダー金正恩時代の建築は調和のとれた外形とパステルカラーだ。からし色、サーモンピンク、ピンク、薄緑といったパステルトーンは西欧建築では使われないが、平壌に行けば建物の外壁でも内壁でもよく目にする。2015年、正恩氏が「おしゃれな児童宮殿」とほめて話題になった江原道元山(カンウォンド・ウォンサン)の新築の孤児院の建物内部はすべて薄黄色で、外観はピンクだ。

「幸福感を誘発するパステルカラーで美しく彩られた建築に何か問題があるのか」と問い返すかもしれないが、ウェイルライトゥ氏は「金正恩政権の意図が伺える」と分析した。パステルカラーの楽天的でモダンな雰囲気を通じて正恩氏が作り出したイメージは、「心配のない北朝鮮」、「繁栄一路の北朝鮮」ということだ。ウェイルライトゥ氏は冷静な評価を下す。

「北朝鮮(金正恩氏)は国民を子ども扱いしており、国民を子ども化する強力な麻酔の道具として建物が利用されている」

●華やかだが空っぽの建築物

米朝首脳会談後、「親しい」間柄に生まれ変わったトランプ米大統領と正恩氏は、建築物でも類似点がある。ガラスの外観で美しく飾ったニューヨークのトランプタワーや取っ手まで大理石で飾ったフロリダの別荘「マー・ア・ラゴ」は、平壌のヨミョン通りの超豪華マンションや47階の羊角島(ヤンガクド)ホテルと通じる面がある。ウェイルライトゥ氏はこれを「独裁者ファッション(dictator chic)」と皮肉った。自分の権力を誇示しようとする華やかさということだ。

しかしトランプ氏と正恩氏の建築物には重要な違いがある。北朝鮮が誇る建築物は華やかに飾られたものの、ほとんど利用者がいないということだ。北朝鮮で中産層がはやい速度で生まれてはいるが、プール場、スキー場、水族館などを楽しむほどにはまだ消費力がないためだ。

北朝鮮の建築物を見回したウェイルライトゥ氏は、「(人が暮らさない)演劇セット場のようだ」と指摘した。演劇の舞台がまさに平壌なのだ。北朝鮮ガイドまで「空っぽの建物に外国の観光客が入ってみる理由はないだろう」と言うほどだ。

ウェイルライトゥ氏は旅行を終えて空港に行く途中、北朝鮮の現実を見た。平壌を少し抜けただけで、すぐに崩れた家やあちこち穴のあいた高速道路、さびついた鉄塔が目に映った。紋繍プール場ではなくこのような所が本当に北朝鮮の日常生活を示す建物であるという思いが頭をかすめた。  


鄭美京 mickey@donga.com