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哀悼のアヴェ・マリア

Posted January. 30, 2019 10:13,   

Updated January. 30, 2019 10:13

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コンサートが圧倒的な歓声の中で終わった。アンコール曲だけが残った状況で、彼女は聴衆に向かって話した。「亡くなった父のために祈りたいと思います。今朝韓国で父の葬儀があったが、私はここで皆さんのために歌を歌っています。私がここにいるのが正しいかどうかはわかりませんが、確かにうちの父は、私が今夜皆さまと共に歌うことを空から見て喜ぶでしょう。今夜私と共にいていただきありがとうございます。私は今夜を忘れないでしょう。このコンサートを私の父に捧げます」

その時になって、聴衆は彼女が父の死にもかかわらず、彼らのために歌を歌っていることに気づいた。アンコール曲はシューベルトの「アヴェ・マリア」だった。彼女は笑みを浮かべて、ピアノ伴奏に合わせて歌を歌い始めた。彼女は最初は「マリア様、少女の祈りをお聞きください」で始まるドイツ語の原曲で歌い、次は「恵みいっぱいのマリア様」で始まるラテン語の祈りで歌った。カトリック教会の「アヴェ・マリア」に該当するラテン語歌詞の訴える力は圧巻だった。そして声自体が既に懇願であり祈りであった。

そうでなくても哀調を帯びたシューベルトのアヴェ・マリアは、個人的な悲しみによって、感情の深さまで加わり、彼女の望みどおりに父のための祈りとなった。彼女の声に込められた切実さが聴衆の胸に染み込んだ。10分間に渡って起立拍手があふれた。彼女は祈るように手を取り合って後ろに回り、目元を拭いた。そして挨拶をして伴奏者の横顔につかの間、本当にちょっと額をつけた。痛ましい節制のジェスチャーだった。

聴衆は彼女を慰め、彼女の哀悼に参加していた。起立拍手はそのような意味だった。彼らも、愛する両親を亡くしたか、いつかは亡くすはずであった。だから、彼女の悲しみは彼らの悲しみでもあった。2006年、パリでアヴェ・マリアをそのように切なく歌った彼女は、世界的な声楽家曺秀美(チョ・スミ)だった。