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キャンピングカーに乗って1年…90歳で人生最高の旅に出る

キャンピングカーに乗って1年…90歳で人生最高の旅に出る

Posted May. 19, 2018 08:25,   

Updated May. 19, 2018 08:25

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「私はもう九十歳ですね。これから旅に発とうとしているところです。もうこれ以上病院の診療室には1分もいたくありません」

2015年7月、90歳の女性は医師に向かってこのように叫んだ。夫と死別してから二日後に子宮末期がんの診断を受けた直後だった。戸惑う表情の医師に向かって、息子も一緒に話した。「キャンピングカーに乗って、母と一緒にできるだけ長く旅に出るつもりです」

すると、医師の表情が明るくなった。「患者さんの年齢で手術に耐えられるかどうかも保証できないし、手術がうまく終わっても、集中治療室でしばらく過ごさなければなりません。もし同じような状況なら、私も同じくキャンピングカーを買う方を選びます」

家に帰ってきた女性は、「最後の旅」の荷物をまとめ始めた。カバンを占めたのは、昔の記憶を呼び起こす写真や物ではなく、道の上で有用な本とパズル、望遠鏡などだった。どのくらい続くだろうか、またどこに行くのかも知らない旅はそう始まった。

この本は、ノーマ・ジーン・バウアーシュミット氏(1925~2016)が息子のティム、嫁のラミーと一緒に、生涯最後の1年を一緒に過ごした旅行を盛り込んだ。当時、本と同じ名前のソーシャルネットワークサービス(SNS)のページを作って、世界的な関心を集めたこともある。人生の最後を最も楽しくて幸せに過ごしたノーマ氏の姿は、死はただ恐ろしくて怖いだけのものではないことを示した。

実はノーマさんは、結婚後67年間、米ミシガン州から一歩も出たことがなかった。そのおかげで、32の州、75都市を回りながら約2万1000キロに及ぶ距離を走り回った旅は、彼女にとってはすべてが新しいものだった。米国初の国立公園であるイエローストーンでバッファローの群れに出くわし、1年に一度公開するニューメキシコ州プエブロ族インディアンの守護聖人の祭りを楽しんだりもした。熱気球での旅、米プロバスケットボール(NBA)の観戦、ボストン港で楽しんだヨットなど、大陸のあちこちを体験したノーマ家族の旅を読んでいると、自然に笑顔になる。

旅をしながら、息子は母親の見知らぬ初めての姿をしばしば目撃した。缶詰トウモロコシ会社であるグリーンジャイアントの巨大なキャラクター像の前で、子供のようにあどけない笑い、国立公園の案内文を一つも欠かさずすべて読んでスポンジのようにすべてのことを吸収する様子。誰かの母として、夫の妻として生きるのではなく、ひたすら自分の姿で人生を楽しむ姿勢を発見する。

もちろん旅行は美しいばかりのものではなかった。50代後半の年齢で90代の老母の世話をしなければならない年取った息子の現実的な悩みも素直に含まれている。車椅子に乗る母のために、キャンピングカーの内部を新たに設計する手間を甘受し、予期せぬ緊急事態に緊張感をほぐすわけにはいかなかった。それでも「今日一日、車椅子を押すのに本当に苦労した。これからはお母さんがあなたを押してあげるから」と、息子を慰めるノーマ氏の言葉は、家族の価値を再確認させる。

本の中からは、病気の苦しみや恐怖などは全く出てこない。その代わりに、素敵なパーマをしたノーマの姿、犬のペットのリンゴと一緒にキャンプ場で楽しんだ夕食など、幸せをもたらすわずかな日常で満たされている。「人生はつかんでいる物と、放す物とのバランスをとること」という13世紀のペルシャ神秘主義詩人ルーミーの言葉と一緒に、ノーマの哀悼のニュースを伝えながら、彼らの旅は幕を下ろす。


柳原模 onemore@donga.com