しかし球団とナム・ジヨンの同行は、最終的には実現しなかった。自由契約選手(FA)市場でIBK企業銀行はナム・ジヨンを保護選手に登録しなかった。最大で5人まで保護選手を指定できたにも関わらず、IBK企業銀行は戦力補強を重視して、苦肉の選択をしたというのが球界の大方の見方だった。その結果、ナム・ジヨンはIBK企業銀行に移籍したFAセンター、キム・ジスの補償選手として興国生命のユニホームを着ることになった。
一般の予想とは裏腹にチームを退団することになったナム・ジヨン本人はもちろんのことだが、バレーボールファンや同僚選手たちにとっても戸惑いがあった。ナム・ジヨンの後輩で代表チーム主将の金軟景(キム・ヨンギョン)は自身のインスタグラムに、ナム・ジヨンと一緒に映った写真を掲載し、「尊重してください」と意味深長な一言を書き込んだ。
移籍から3日後に会ったナム・ジヨンは、「最初は腹が立った。しかし、思ったよりは早く気持ちが整理できた。興国生命の宿舎に入ったときは、『これからどう過ごせばいいんだろう』と心配でいっぱいだった」と言い、あえて何気ない表情を見せた。
そして、過去に今の自分と似たような境遇に置かれていたチェ・テウン現代(ヒョンデ)キャピタル監督(現役時代は補償選手で三星火災から現代キャピタルに移籍)の名前を持ち出した。「(現代建設の)ハン・ユミさんとの通話で『どこで引退するかは重要じゃない。どう引退するかが大事なんだ』と言ったチェ監督の言葉を教えてもらったんです。ここで自分が興国生命を拒否する理由などないと思うようになりました」。
プロではリベロでプレーしたナム・ジヨンは、いつも花形の主役より脇役に慣れていた。金メダルを獲得した2014年の仁川(インチョン)アジア大会や、昨年のリオデジャネイロ五輪でもそうだった。「一生をアリみたいに実直で真面目にバレーボールをしてきた気がするんです。弛むことなく、基本をきちっと守ってきたと思います」。
若い選手が多い興国生命に合流したナム・ジヨンは、この1ヵ月間、後輩たちと合宿しながら「オムニ(オンマ=お母さん+オンニ=お姉さん)という新しい異名を得た。ナム・ジヨンに先にFAで興国生命のユニホームを着た国家代表リベロのキム・ヘラン(33)との呼吸も、ファンには興味深い要素だ。
あいにくもナム・ジヨンは10月の2016~2017シーズン開幕戦では古巣IBK企業銀行と対戦し、興国生命選手としてのデビュー戦を行う。会場も昨シーズンまで本拠地だった華城(ファソン)体育館だ。インタビューの最後に、「最初は計画通り、今シーズンを最後に引退するのか」と質問したら、ナム・ジヨンは「それは分からない。40歳まで活躍してくれと言う人が多い。体はつねに軽いです」と言い、妙な笑みを浮かべた。新天地での活躍に自信が溢れていた。
姜泓求 windup@donga.com