Go to contents

アジェ・ファタールの前は「ジュンマレラ」シンドローム

アジェ・ファタールの前は「ジュンマレラ」シンドローム

Posted August. 27, 2016 07:07,   

Updated August. 27, 2016 09:01

한국어
中小企業で働くキム・ジェウさん(47)は最近、当惑する経験をした。姉の子供が自分のことを「アジェ」と呼ぶためだ。ソウル出身なので聞き慣れず、何回が笑い流したが最後には気分が悪くなり、「その口のきき方はなんだ」と叱った。すると、中学生の甥は当惑して言い返した。

「叔父さん、知らないの?『アジェ』は良い意味だよ。最近は素敵なおじさんを『アジェ』って呼ぶんだ」

21世紀の韓国社会で、アジェはもはや見下げて呼ぶ言葉ではない。最近では肯定的なイメージが強い。昔なら、ハンサムでなければ注目されなかった中年の芸能人がアジェと呼ばれて人気だ。実際の生活にも広がった。エムブレインのアンケート調査で34.2%が「周囲に『アジェ・ファタール』と呼べる中年男性が増えた」と答えた。

2016年、韓国社会はなぜアジェに熱狂しているのか。本当に韓国社会のアジェが脚光を浴びる時代が来たのだろうか。

●大衆文化とSNSで触発された「アジェ」ブーム

専門家たちは、最近のアジェ・シンドロームは大衆文化から発したと見ている。以前もオン・オフラインでアジェという表現は使われたが、アジェと「オム・ファタール(Homme fatale)」(抗しがたい魅力を持つ男性)が合成された「アジェ・ファタール」という新造語が登場し、爆発力を得たと説明する。特に、今年1~3月に放映されたtvNのドラマ「シグナル」に出演した俳優の趙震雄(チョ・ジンウン)は、アジェ・ファタールの「元祖」と言える。

これまでの韓国ドラマの男性主人公は、優れた容姿と格好いい職業が優位を占めた。しかし、趙震雄が演じた刑事イ・ジェハンは、平凡な容姿で人間的だが、不正義に立ち向かうキャラクターだった。ある芸能企画会社代表は、「40代の助演のイメージが強かった趙震雄が、華やかなスター性に頼らず、演技力と親近感だけで人々を引きつけたことで、アジェ・ファタールという賛辞がついてまわった」と話した。

その後、アジェ・ファタールは広く知られた。筋肉隆々の体格にそぐわず、おとぼけの演技をする俳優の馬東錫(マ・ドンソク)、様々なバラエティ番組で細やかさを見せた俳優の李瑞鎮(イ・ソジン)なども「アジェ・ファタール」と呼ばれた。こうなると、流行に乗って「氾濫」現象が起こっている。様々なテーマで芸能人の順位をつけるtvN芸能「名簿公開2016」は5月、「オッパより魅力的なアジェ・ファタール・スター」で、俳優のチョン・ウソンやエリックもアジェに選んだ。ある大衆文化評論家は、「初期のアジェ・ファタールは、おじさんで魅力のある人を指す言葉だったが、最近では従来のハンサムな男性にまで、年齢がそこそこいっていれば皆アジェ・ファタールとする『乱用』が起こっている」と強調した。

アジェ・ファタールと共にアジェブームを牽引したもう一つのキーワードは「アジェ・ギャグ」だ。本来アジェ・ギャグは、「双八年度(サンパルヨンド)ギャグ」と言われた時代遅れの言葉遊びのことを指した。「いつも腹を空かせた国はハンガリー」、「一番古い橋(タリ)はポンコツ(クダクタリ)」といった具合だ。主に中年男性のギャクがつまらなく堅苦しいとバカにする意味が含まれていた。

しかし、21世紀に入ってソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)と接し、アジェ・ギャグは「換骨奪胎」した。長い文章より短めの文を好むSNSと簡単明瞭なギャクは相性がよかった。

これによりアジェ芸能人のギャグもスポットライトを受けることになった。代表的な例が歌手の金興国(キム・フングク)だ。彼は長い間、同じ調子で冗談だけ繰り返す手のつけられないイメージが強かった。しかし、コメディアンの曺世鎬(チョ・セホ)に言った「安在旭(アン・ジェウク)の結婚式になぜ行かなかったのか」という一言で、「フングォシン(興国+芸能の神)」というニックネームまでついた。この「とりとめのない」会話は昨年のことだが、オンラインで再生産・消費されて話題を集めた。エムブレインの調査「アジェといえば思いつく芸能人」という質問でも、金興国が50.8%の支持を得て趙震雄(19.7%)馬東錫(11.5%)を抜いて圧倒的1位となった。

●既成世代の風刺は強いが意思疎通の機会なるかも

ならば韓国社会の「アジェ・ホリック(holic)」はどんな社会的意味が込められているのか。ひとまず、アジェの数が明らかに増えていることに注目する必要がある。

行政自治部と統計庁資料を見ると、2015年の40、50代の男性の数は約870万人。これは417万人だった1990年より454万人も増え、2倍以上に増加した。男性の人口は1990年の2178万人から2015年には2576万人と398万人しか増えていない。別の年齢帯と比較して「アジェ」が増えたわけだ。

アジェの量的拡大は同年齢帯の女性と比較しても目立つ。40、50代女性の「おばさん」は1990年の478万人から2015年には848万人と370万人ほど増えた。25年間でアジェがおばさんより84万人多くなったわけだ。1990年にはおばさんがアジェより61万人多かったが、2015年にはアジェがおばさんより22万人も多くなった。

 

人口増加に比例して社会的影響力も自然に大きくなった。2012年の大統領選の結果に最も大きな影響を及ぼしたのは50代の投票だった。以前なら大衆文化で主流から押し出された40、50代が、今は旺盛に活動していることも関係がある。誠信(ソンシン)女子大学教養学部のソ・ギョンドク教授は、「大衆文化は、過去においては10、20代を主流と見る傾向が強かったが、今は様々な階層が声を出す時代だ」とし、「現在の中年はテレビや映画、歌謡を積極的に楽しむ主流消費層としての地位を確立した」と強調した。大衆文化で端に追いやられていたアジェの声が大きくなる環境が整ったということだ。

しかし、このような流れが韓国社会でアジェの地位まで上げたと見ることはまだできない。アジェ・ファタール、アジェ・ギャクと同時期に流行した「ケジョシ」という新造語だけを見ても分かる。「犬(ケ)」と「おじさん(アジョシ)」の合成語で、弱者に対して威張る中年男性を意味するこの言葉は、韓国社会がアジェを「年寄り」と見る見方も相変わらずであることをうかがわせる。実際、エムブレインの調査でも、「アジェの短所」(複数応答)について、「時代遅れ」(64.0%)、「意思疎通が足りない」(55.8%)、「頑固」(44.4%) 「自己中心的」(33.2%)が上位を占めた。ある社会学者は、「現在、アジェのコードは尊敬よりも既成世代に対する風刺の意味が強く、意味づけが難しい」と指摘した。

テレビやインターネットでアジェに注目する理由も、今この瞬間に「商品価値」が高いためだという意見もある。アジェの社会的認識の変化に反応したのではなく、流行りを追ったということだ。実際、パイロット版で話題を集め、26日から編成されたSBSの「再び書く育児日記!」や瞬間最高視聴率が7%を超えて話題を集めているチャネルAの「アッパ ポンセク」を見ると、大衆文化がアジェを消費する典型的な方式がうかがえる。金興国、キム・グラ、金健模(キム・ゴンモ)などアジェ芸能人は最新のトレンドに馴染まず、さむいジョークを言って、若い世代との意思疎通の難しさを経験する。あるバラエティ番組のプロデューサーは、「最近のアジェ素材の流行は、単発性の話題それ以上でも以下でもない」とし、「物議を呼ぶアジェ芸能人が出てきたり、中年男性に関する社会的論議が生じる瞬間、バブルは消えるだろう」と話した。

だからといってあまり悲観的になる必要はないという意見もある。このような風潮が、世代間の意思疎通のきっかけをつくる機会になり得るためだ。甥にアジェと呼ばれたキム・ジェウさんは、「誤解が解けた後、昔流行した言葉遊びをいくつか聞かせたところ、甥がすごく喜んだ。共感できた気持ちだった」と語った。ある芸能企画会社代表は、「アジェ文化が一つの固有の領域として受け入れられるなら、社会的文化的多様性を豊かにすることができるだろう」と指摘した。もしかするとアジェ・シンドロームは意図しようがしまいが異なる世代に差し出された手かもしれない。それを払いのける理由はないのではないか。

「俺はアジェ、40過ぎのアジェ/結婚もせず家もないが/心配はNo、俺だけを信じて/一度だけはたけば、みな倒れるから・・・俺が恥ずかしいのか/俺が間違ったのか/俺はお前たちが好きだ/ずっと遊んでくれ」(ノラジョの歌「アジェ」から)



정양환기자 ray@donga.com · 이지훈기자 チョン・ヤンファン記者 イ・ジフン記者 easyhoon@donga.com