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ミサイルほど強力な金正恩氏の宣伝扇動

Posted August. 05, 2017 07:17,   

Updated August. 05, 2017 07:41

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北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長が昨年以降、ミサイル発射場に漏れなく姿を現わすのは、今では珍しいことではない。先月4日には危険な発射場の周辺でタバコをくわえ、先月28日には慈江道舞坪里(チャガンド・ムピョンリ)付近で真夜中に大陸間弾道ミサイル(ICBM)級「火星(ファソン)14」を発射する様子を視察した。

金委員長がすべての状況を主導する主人公と描写する高度なイメージ政治は、父親の金正日(キム・ジョンイル)時代には夢も見ることができなかった。当時の写真には金正日総書記はほとんど姿を現わさず、現われたとしてもかなり時間が経って1、2枚が公開されたにすぎない。数十枚の現場の写真が発射直後に公開され、24時間以内に動画が公開される金委員長の「ミサイル露出症」は、住民に権力の大きさを証明するとともに、国際社会には恐怖感を与える心理戦だ。

金委員長は、成功したミサイル発射の写真や動画だけに登場する。白い服を着て視線を引きつけ、抱擁や参観など主人公だけができる行動を演出する。ミサイル発射の場面が単なる軍事訓練でなくメディアを通じて権力を確認させるイベントであることを示す。祖父である金日成(キム・イルソン)主席と父親の顔のバッジもつけない。ミサイル発射の成功を自分政治的功績として認めさせようという思惑がうかがえる。

政権に就いて以降、金委員長は父親とは異なる姿を人民に見せるよう努めた。それが金日成主席と似ているという誤解も受けた。しかし、金委員長は自分の道を行こうとした。平壌(ピョンヤン)を中心に新たに建設された建物を披露し、倉庫にいっぱいの冷凍の魚を見せた。食糧問題で人民に見せることができる限界に達すると、金委員長はミサイル発射のイベントにエネルギーを集中している。北朝鮮が騒々しくミサイル発射実験を行うのは、金委員長が人民に自分が世襲した権力が正当であることを示すためだろう。溢れる北朝鮮のICBM写真から3点の秘密をまとめた。

●世界に届く金委員長の「ミサイル」

偶像化においてイメージの役割は重要だ。金委員長は、祖父と父親の時代よりもイメージをうまく活用している。昨年と今年、ミサイル発射の場面を公開し、記念写真を撮影することは、ミサイルと核兵器をもはや隠さず権力の正当化の重要な道具に活用するという点で、以前とは異なる態度だ。イメージは誰が撮るかによって感じが変わる。北朝鮮に常駐する外信記者はいるが、彼らがミサイル発射の現場に接近して直接取材したという話は聞こえてこない。外国のカメラは遮断され、北朝鮮の映像チームが様々な角度から撮影して国際社会のメディアに配布することで、自分たちの声を外国メディアを通じて伝えている。

北朝鮮が発射したミサイルは東海(トンヘ、日本海)に落ちるが、ミサイルの写真は国内の新聞と放送を通じて国民に伝えられている。北朝鮮が発射した未詳の発射体が東海に向かって飛翔したことが、韓米日のレーダーに捉えられる。しかし、発射体の実体は把握されない。しばらくして北朝鮮は2時間後に重大発表をすると予告する。世界の記者たちは、衛星を通じて転送される朝鮮中央テレビの画面の前で重大発表を待つ。

そして、北朝鮮のアナウンサーがハイトーンで、「北朝鮮がミサイルを成功裏に発射した。金正恩委員長が喜び、人々が喜んだ」と伝える。単なるファクトに比べて華やかなイメージが加わり、ニュースは大きくなる。戦争を連想させる兵器と火炎は商業メディアの重要な関心事項だからだ。先月4日に北朝鮮が火星14を発射し、同月28日に2回目の発射をした時も同じパターンだった。北朝鮮は発射日を米国の独立記念日と韓国戦争休戦記念日の翌日に選んでニュースの価値を高めた。

●よく計画された動線とアングル

金委員長は、外部世界が自分を見ているということをよく分かっている。火星14の2回目の発射が差し迫ったという欧米の分析が出た先月26日、北朝鮮は平安北道(ピョンアンプクト)に向かう車の列を演出することで外部の視線を誘導する一方、その翌日に韓国戦争戦死者墓地がある平壌で追悼式に行い、挑発がないと安心させるフェイントを見せた。

北朝鮮の映像技術とメディア技術は、米国など自由主義国家と比べて後れを取らない。宣伝扇動を重視する社会主義国家の当然の能力でもある。写真技術と党への忠誠を検証された人々が撮影チームを構成し、金委員長を撮影する。ベテランのイメージプランナーが演出し、経験豊かな映像専門家が撮影して外部に配布する。羅老(ナロ)号の発射を撮影した韓国のカメラマンの多くは、夜間に速度のある発射体に正確にフォーカスを合わせて撮ることがどれほど難しいか知っている。潜水艦から発射されたミサイルが海面から出てくるところを正確に捉えたことも、撮影チームの専門性をうかがわせる。

火星14の2回目の発射の時は、国際社会の要求に合わせるために画面も様々な角度で捉えた。画面の中の木の位置や発射体の角度などから推定して、北朝鮮当局は少なくとも5ヵ所以上の撮影ポイントにカメラマンを配置したと見える。発射台から遠く離れた場所だけでなく、すぐそばに仮設物を設置して危険をかえりみず近接撮影したこともうかがえる。各場所で撮影された画面を編集して2分ほどの動画ファイルを最終的に作製して外部に伝えた。別の角度で撮影された発射場面を繰り返し見せる動画の分量は、韓国をはじめ外部世界のメディアがニュースを製作するのに十分な量だ。

日本のNHKが火星14が北海道付近に落下する様子をかすかに捉えたが、これを引用したメディアはほとんどなかった。北朝鮮が提供する画面でニュースを作るのに不足がなかったためだ。

●金委員長ひとりのためのドラマ

ミサイル発射実験は、金委員長ひとりのためのドラマだ。一般的に北朝鮮は、記念写真の形式で多くの人の顔が公平に写る方法を選ぶが、今は金委員長の「ワンマンショー」が繰り広げられている。主人公の金委員長が老いた軍人や科学者を抱擁する。彼らは隣で謙虚な姿で画面を構成する。

ミサイル発射の写真を精巧に撮影するだけでなく、ミサイル発射前後でミサイル発射のイベントを祭りにする演出まで行い、宣伝効果を最大化している。イベントの現場に金委員長が姿を現わしてニュースの価値を高め、発射が終わった後の大規模な宴会と花火大会を利用してフェスティバルにする。発射のイメージがなければ、指導者が現場に姿を現わす写真がなければ、それを見て喜ぶ軍人や祭りをする人々の姿がなければ、ニュースは小さくなるだろう。それを承知している北朝鮮が、全世界を相手に宣伝扇動をしているのだ。

平壌市内には野外電光掲示板が設置され、ニュースを見る市民の写真が撮られる。2014年頃から北朝鮮の平壌駅前をはじめ都心に大型の電光掲示板が設置された。その後、北朝鮮当局の重大発表やサッカーW杯などを北朝鮮人民が見る様子が写真に撮られた。まるでソウルや東京で市民が街頭でニュースを視聴するようなイメージを作り出すことで、北朝鮮住民が金委員長のミサイル発射の視察に大きな関心を持って賛成しているというムードを表現する。ミサイルが成功的に発射されれば、金正日総書記の死去の報道などで馴染みの李春姫(リ・チュンヒ)アナウンサーが重大発表をする姿が電光掲示板に現われ、数十人の市民が視聴する。

平壌に支局を置くAPやCNN、共同通信のカメラマンも撮影することができる。北朝鮮が撮影した写真では数十人の住民が両手を挙げて歓呼するが、外信記者が撮影した写真では淡々と視聴する姿も時々うかがえる。



邊映昱 cut@donga.com